円安・円高ってどう言う意味?
円安とは文字通り日本円が安くなったことを表しています。例を挙げて具体的に見ていきましょう。

上の図では100円を出せば1ドルを買えていたものの、時間を経て200円を出さないと1ドルを買えなくなったということを示しています。
ここで「100円から200円になったから円高」と考えるのは誤りで、正しい答えは円安になります。
200円=1ドルということは、言い換えると半分の100円では0.5ドルしか買えないということになります。
100円=1ドルのときよりも買えるドルが少なくなってしまい、それだけ円の価値が安くなった(=円安)といえるのです。
逆に円高とは文字通り日本円が高くなったことを表しています。
さきほどの例で200円を払って1ドルを買っていた状態から、時間を経て100円を出せば1ドルを買えるようになったとき円高と言います。
円安と円高のメリット・デメリット
円安のメリット・デメリット
円安のメリットは、輸出企業が海外で稼いだ外貨をより多く円に転換できるという点にあります。
企業の売り上げも円安の分だけ増えることになり、業績にも良い影響があるでしょう。
また円安になると輸出する製品を安く設定することもできるので、国際競争力も高められるかもしれません。
円安のデメリットは交換できる外貨が少なくなってしまうので、海外のモノやサービスが高くなってしまう点にあります。
エネルギー資源や食材などの価格も上がってしまうため、私たちの生活を圧迫するかもしれません。もちろん獲得できる外貨が減ってしまうので海外旅行も割高になってしまいます。
円高のメリット・デメリット
円高のメリットは、円の価値が高くなることで相対的にドルなどの外貨が安くなり、海外の製品やサービスを安く買える点にあります。
石油や天然ガスなどの資源エネルギー、食材なども安く買えるので暮らしは楽になるかもしれません。
さらに外貨をより多く手に入れられるという理由から海外旅行にも安く行けるでしょう。
円高のデメリットは、輸出企業が海外で稼いだ外貨を円に転換すると目減りしてしまう点にあります。
目減りした分を製品価格に上乗せすると日本の製品が海外で売れにくくなり、企業の業績にも影響が出るでしょう。
日本経済を率いる大企業は海外に輸出することで成り立っているメーカーが多く、急激な円高局面になると経済に悪影響が出るといったニュースが飛び交います。
なぜ急に円安になったの?
円安傾向が強まったのは、22年3月に米連邦準備制度理事会(FRB)が金融引き締め策を加速する姿勢を示したからです。これを受けて市場では日米の金利差が拡大するとの観測が広まりました。これによって円を売ってドルを買う動きが強まり、4月の約1カ月間で円相場は1ドル=118円台から129円台まで円安が進んみました。以降、円相場は一時的に1ドル=130円台に乗せる場面があるものの、1ドル=127~129円を推移する状態が続いていました。
そんな中、潮目が変わったのが6月10日の5月の米消費者物価指数(CPI)の発表です。物価動向はFRBが金融引き締めのペースを判断する際の重要指標です。40年ぶりの伸び率を記録した3月の前年同月比8.5%上昇から4月は同8.3%上昇だったため、市場では「インフレのピークは近いのでは」との予想が大半でした。しかし結果は前年同月比8.6%上昇と3月を上回り、前月比でも1%上昇となったため市場の希望的観測は裏切られる形となりました。物価上昇が止まらない以上、米国はさらに強い金融引き締め策を実行するのが確実となりました。
この「CPIショック」を受けて米長期金利は上昇。日米の金利差は拡大し、ドルを買う動きが強まったということです。円相場は1ドル134円台まで円安が進み、6月13日には一時1ドル=135円台前半まで下落し、98年10月以来、約24年ぶりの安値水準となりました。
いつまで円安は続くの?
この疑問は「ドル高はいつまで続くのか」と言い換えた方が良いかもしれません。今回の円安の最も大きな原因は日米金利差の拡大にあります。つまりドル高が収束しない限り円安は続くと考えられます。
米国はインフレ鎮静化に向けて利上げを進めていますが、政策金利が利上げサイクルの到達点といわれる2%台半ばに差し掛かる頃が「ドル高の終わり」と見る市場関係者は多く、この頃になれば米国の物価上昇率が鈍化し、景気後退リスクが意識されるようになります。足元の政策金利は0.75~1%。あと何回の利上げで2%台半ばまで持っていくかによって、ドル高の終着点が見えてくるでしょう。6月と7月、0.5%ずつの利上げは確実視されているため、秋口にはドル高が一服すると考えられます。
11月には、米国の中間選挙も控えているので、ここで与党民主党が敗北すると、米国政治が停滞するリスクの高まりが意識されます。ここでドルが売られるシナリオも十分ありえるでしょう。
米国のインフレ、原油価格高騰という、あらがえない外的要因が円安進行の主要因と捉えられており、米CPIの記録的な上昇で、米国では「インフレが減速しないリスク」が現実味を帯びてきています。米国の物価上昇は新型コロナウイルス禍からの経済正常化に伴う供給制約がきっかけでしたが、今やロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の上昇に加えて、コロナ禍で抑えられていた消費者の社会活動が活発化し、需要が旺盛になり始めている点もインフレを助長させています。インフレ懸念が後退しない限り、FRBは金融引き締めをやめないため、円安基調は変わらないと思われます。
一方、一昨年以降の原油価格の上昇は日本の原油輸入額を膨らませており、支払いに必要なドルを調達するためのドル買い、円売りの動きが活発化しています。貿易収支は輸入額が輸出額を上回る赤字状態が続き、改善の見通しは立てにくい状態です。ロシアへの制裁や、欧米諸国によるロシア産原油の禁輸措置導入も相次いでいて、世界の原油需給は引き続きひっ迫しており、価格高騰が収まる可能性は低いと考えられます。
まとめ
これまで見てきたように、円安は、日本経済に対して、プラスの影響とマイナスの影響の双方をもたらします。差し引きどちらの方が大きいのかは、一次産品価格の高騰などの要因を調整しなければならず、より詳細な分析が必要になってきます。しかし、仮に円安がもたらすプラスの影響の方が大きいとしても、現状においては、必ずしもその恩恵が家計にもたらされるわけではありません。
円安のプラスの効果は、多くの場合まず企業収益の増加として現れてきます。それが、家計の所得の増加をもたらすためには、二つの経路が考えられます。一つは賃金が増加することです。しかし賃金がなかなか増加しないことは、この間、日本経済の大きな課題とされてきました。もう一つ考えられる経路は、企業の株価の上昇や配当の増加を通じた資本所得の増加です。この経路は、家計が株式や投資信託をかなりの比重で所有している場合には、重要なものとなります。アメリカの家計がそのよい例です。しかし、日本の家計の場合は、その金融資産の多くを現金・預金で所有しており、株式や投資信託で保有している割合は極めて小さいものにとどまっています。したがって、日本の家計にはこの経路も閉ざされているのです。
円安のプラス効果を、家計の所得増に導き家計支出の増加をもたらすことによって成長と分配の好循環を生み出すことを期待したいのであれば、こうした所得分配のあり方、資産配分のあり方にも検討のメスを入れ、政策課題として取り組む必要があります。それがなされない限り、家計は円安のプラス効果を実感できないまま取り残されてしまうことになってしまいます。
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